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2020年9月

2020年1月16日、国内で初めての新型コロナウイルスの感染者が報告され、その後第ー波、第二波と感染は拡大しました。これに伴い我々の生活様式は一変し、不妊治療にも暗い影を落としました。その後、新型コロナウイルスの妊娠や出産に対する影響も徐々に解明され感染防止に努めながら不妊治療を再開することができるようになってきています。この5年間の間に生殖医療の世界では男性不妊がクローズアップされ、男性不妊専門外来の設置やTESEを初めとする男性不妊手術が全国的に拡充されてきました。当院においても2014年1月からリプロダクションクリニック大阪・東京の石川智基先生のご協力を得て、micro TESEを開始、同年12月には県内初めてとなる妊娠・出産例を経験しております。さらに2020年3月より石川先生による男性不妊専門外来も開設し、TESEに加え精索静脈瘤等の日帰り手術も開始しております。

また体外受精においては着床障害の方に対する検査や治療の開発が進んでいます。子宮内膜胚受容能検査(ERA)や子宮内フローラなどの遺伝子検査に加え、慢性子宮内膜炎、Th1/Th2比などの免疫学的検査が報告され、それぞれの異常に対する対策法が考案されています。しかし現時点ではデータの集積や解析は十分とは言えず、今後さらなる医学的検証が必要です。医療を提供する側も治療を受けられる方も、この点を留意しながら慎重に診療に臨む必要があると考えられます。さらに最近、着床不全に対し再生医療を利用したPRP(多血小板血漿)療法が厚労省の認可施設において実施されています。当院でも 2020年7月から実施し、成功例を得ております。

このように新たな検査・治療法が登場する中で将来高度で高額な不妊治療を受けなくても自然に近い形で妊娠できないかという不妊予防学(プレコンセプションケア)という概念が提唱され始めており、今後これらの検討や啓蒙が注目されると考えられます。

2015年1月

近年の医療の進歩には、目覚ましいものがあります。

2012年10月iPS細胞を発見した山中伸弥教授がノーベル生理学・医学賞を受賞しました。成熟細胞を若返らせることで得られるこのiPS細胞(induced=誘起された、pluripotent=多能性、 stem=あらゆるものに変化、cell=細胞)は、あらゆる細胞や組織に分化できる能力があり、再生医療の切り札として期待されています。既に網膜や血小板が作られ治療への応用も始まっています。生殖医療の分野においても研究が進められており、将来的には患者さんの皮膚細胞から卵子や精子を再生出来る日が来るかもしれません。

生殖に関わる移植医療の分野では、子宮移植が最近注目されています。癌や先天欠損により子宮がないために子供をあきらめなければならない患者さんにとって、福音になるかもしれません。また、卵子(未受精)凍結の実施準備も進められています。これにより、将来子供を希望する方が事前に卵をストックすることが可能になります。借り卵子や代理出産に関する法整備も進められています。

様々な可能性が見い出されていますが、倫理的・道徳的に解決すべき課題が残されていることもまた事実です。

一方、不妊治療の患者さんの高齢化が問題となっています。これに関連して加齢と体外受精の成績との関係が全国的に調査されました。その結果、妊娠が難しいとされる43才以上の方への助成金が中止されることになりました。

加齢は卵子に影響を及ぼします。現在、卵巣年齢が推定できるAMH(抗ミュラー管ホルモン)の測定が可能となり、卵巣の予備能力に合わせた治療計画や排卵誘発の方法を選択する事が重要となっています。加齢による影響は卵子のみではなく子宮の胚の受容能力の低下や子宮内膜症・子宮筋腫の罹患率増加に及びます。凍結技術を用いた単一胚盤胞移植が盛んに行われている中、いかに着床しやすい環境を調整していくかが重要となってきます。そのためには個々の患者さんの状態にあわせ、内視鏡治療や免疫学的治療等を駆使した集学的ARTが必要な時代となっていると考えられます。当院でも開院以来内視鏡 治療を併用した不妊治療を行っており、ピシバニール療法やイントラリピッド療法等新しい着床障害の免疫療法にも積極的に取り組んでいます。

また、培養方法も進歩し、胚を培養器から出さずに観察するタイムラプスモニタリングシステムも開発され、当院でも導入しています。
女性側の要因だけでなく、男性不妊も問題があります。特に無精子症は深刻な問題です。当院でも従来のTESEに加え、わずかに作られている精巣内精子を取り出すMD-TESEの取り組みも開始しています。

2011年9月

2010年10月4日、世界で初めてヒト体外受精に成功したイギリスのエドワード博士がノーベル医学賞を受賞しました。

1978年の成功以来、体外受精は数多くの不妊患者さんに福音をもたらしてきました。現在本邦では50人に1人のお子さんが体外受精によって誕生する時代となっています。

この30年の間に体外受精に関連した様々な技術も進歩し、それに伴い借り卵子、代理出産、着床前診断やクローン技術などの生命倫理に関わる問題、また生まれた子供さんの長期的な予後などがクローズアップされ、検討すべき重要な課題となってきています。

また体外受精に伴う多胎防止策として、2008年4月に学会は移植胚数を原則1個(場合により2個)とする見解を示しました。これは2001年以来当院の目標としてきた「1個の採卵で単胎妊娠を目指す」ことと合致すると考えられます。今後は低侵襲で体にやさしい診療を目指して、さらに努力したいと思います。

ここ10年間に晩婚化はさらに進み、不妊外来の初診年齢は2歳高くなり、7組に1組が不妊カップルと言われています。これらに不妊治療が日進月歩で多種多様化していることも相まって、今まで以上に高度な診療が必要となってきています。当院ではそれに対応するため、治療に際してはドクターだけでなく不妊専門看護師、 カウンセラー、検査技師、胚培養士、コーディネーターという専門職のスタッフがチームとなって診療にあたっています。不妊治療の分野においてもチーム医療を実践することが成功への近道となると信じています。